LOGINその後、僕らは午後の仕事に取り掛かる。
とは言っても話し合いがそこそこの時間を食ったから、せいぜい日暮れまでの数時間だ。 ジャリはユーミン姉妹を連れて窯に戻る。 ヘレンはアニー、オギンと一緒に今日採った食材の保存食への加工作業。 オギン以外の新入り二人はここで生活する準備、具体的にはテントを張る作業をする。 まだ二軒目の建築中で、まだまだみんなテント暮らしだからね。 僕はルダーと一緒にジョーと打ち合わせ。 次に来る時に用意してもらう必要なものの洗い出しをする。 問題は砲の存在の有無をどうやって聞くか? あるならいいんだ。 けど、なかった場合「どう説明すればいいんだ?」ってことに無駄に悩んでいるわけ。 それをさらっと解決したのがルダーだ。「ジョーさん。この世界には火薬ってあるのかい?」
って。
「火薬?」
「ああ、んーん……すげー燃える粉だ」
うわ、すげーざっくり説明した。<
「じゃあ、明日か明後日にはここに来るってことでいいのか?」 僕ん家の囲炉裏の間で行われている軍議。 参加しているのはジョー、カイジョー、イラード、ペギーそしてザイーダ。「いえ、隣村からこの町までの道は行軍には不向きですので、先行して人夫が道の拡幅作業をしています」 あら、ありがたい。「それってどれくらいの時間がかかりそうなんだ?」 結構かかりそうだぞ? つーか、無駄な労力だと思うね、本当にありがたいけどさ。 「兵は神速を尊ぶ」は魏書郭嘉伝だったかな? まぁ、地球でもヨーロッパとアジアでは戦争の仕方が違ったわけで、今回の一戦でこの国の戦争実態が初めて知れることになるわけだ。 おおよそは文献で想像がつく。 国王を頂点とする封建国家、爵位の制度があって国王に対する直臣貴族の領主がおり、その下に陪臣、下級貴族である騎士が存在する。 軍は騎士と傭兵で構成されていて、少なくとも現時点では徴兵制はない。 騎兵、つまりホルスに乗れるのは騎士以上。 ま、だから騎士なんだけど。 傭兵は自分の得意武器によって剣兵、槍兵、弓兵に分けられる。 ってところが、僕の現世知識だ。「拡幅といっても大木を伐採するわけではありませんから、四、五日後には姿を現すでしょう」 どんなことをしてんだろ?「軍勢規模は?」 侍大将カイジョーとしてはやっぱりその辺気になるか。 当然、僕も気になる。「騎兵十五騎、弓兵二十、それに剣兵が三十六人です」 七十人規模。 結構な人数だ。 想定より多いのは前回あまりにも華麗に追い返しすぎたせいか?「歩兵のうち騎士の配下、正規兵は何人だ?」「そこまでは……」「カイジョー、正規兵と傭兵だと違いがあるのか?」「ええ、傭兵は不利と見るや逃げ出します。命あっての物種ってやつですよ」 なるほど。「
僕は糸電話の原理を説明する。 糸電話は地球では十七世紀に発明されたと言われている。 最初に作られたのがブリキ缶を針金で結んだものだったため、英語ではブリキ缶電話という。 地球の物理的には糸をたるませると振動しなくなるけど、魔法なら魔力そのもので振動させられるんじゃないかと踏んでいる。 ラバナルの目がキラッキラと輝きだした。「できるぞ。それなら魔法にできる。お主、やるな」 僕じゃなく(前世世界の)先人の知恵なんだけどね。「しかし、それを実現させるにはやはり魔力操作が必要だな」 む?「つまり、町に魔法が使える人間が必要ということですか?」「道具に魔法陣を施せば魔道具として用意できるが、魔道具は魔力を通さねば使えんでの」 僕はオギンと顔を見合す。 候補は三人。 物見櫓から落ちて歩けなくなったチャールズ。 カシオペアの紅一点ペギー。 そして、ルダーとヘレンの娘ママイ。 もっとも、ママイはまだ一歳にもなっていないから無理だ。「魔力感能力が高いのが町には二人いる。ここに通わせてもいいかな?」「む。二人か。……いいだろう」「一人は事故で歩けなくなっているんだけど……」「面倒な……とはいえ、会ってみなければなんともいえん。明日、連れてこい」「僕も?」 やることいっぱいあるんだけどな。「お館様は忙しいんだ、あたいが連れてくるんじゃダメかい?」「んーん、仕方ない。三人だけだぞ」 翌日、ラバナルに面会した二人はどうやらお眼鏡にかなったらしく、チャールズはしばらく住み込み、ペギーは三日に一度通うことになった。 十日後、ペギーとオギンによってラバナルの家、物見櫓、僕ん家の三ヶ所に魔道具電話が施設された。 電線がわりに利用されたのは魔法によって生み出された糸だ。 魔法の糸なので強度が高く腐食にも強いんだって。 さらに四日経って、
「なに、もう一戦交えた? なぜワシに言わんで始めた?」 すげぇ残念そうに言うラバナルだけど、僕は始めからこのタイミングで言おうと決めていたので馬耳東風を決め込んでいる。「まったく……せっかく思案がついた鉄の弾丸を実地で試せる場があったと言うのに、みすみす見逃してしまうとは」 怖いこと言うね。 人の命をなんだと思ってるんだよ、この人。 もっとも、僕もその力をあてにしているので同じ穴の狢ってわけだけどね。「次は試せますよ」 と、表情を作らず、言葉に抑揚を乗せずに答える。「なんと?」「次は小競り合いじゃなく戦争になります。ですからあなたのお力を借りたくこうしてお願いにあがったわけです」「重畳重畳。して、その『次』はいつだ?」 せっかちだな。「さぁ、いつでしょう? 前回が十六日後でしたから少なくとも二十日は先かと」「そうか……」 本当に残念そうだね。「今日はその件でご相談したいことがあるのですが」「なんぞ?」「男爵軍が来るまでは、ここにおられるのでしょう?」「町で愚かな人族と一緒に暮らしたくはないからの」 歯に衣着せぬ辛辣な表現ありがとう。「では軍が来たことはどのように報せれば良いかと言うのが、本日の相談事です」「お主が知らせに来ればよかろう」「お館様は町の指導者です。伝令扱いされては困ります」 オギンがむすっと反論する。「なるほど、正論じゃ」「伝令を遣わせてもいいのですが、ここに来るまでにたっぷり一時間はかかる。戦に時間は惜しい。そこで、こんなことが魔法でできないかと……」「どんなことだ?」 おっと、食いついた。「瞬時に目的の場所まで移動できるとか」「魔法は理を操る技術じゃ、理屈が通らねば実現できん」 なるほど。
とにかく今は対オルバック軍に全力集中だ。 まず、物見の報告によると、軍勢は想定より多い十八人。 うち弓兵が五人、剣兵が六人、ホルスに騎乗しているのが七人だそうだ。 ちょっと多いな。 騎兵は四、五騎の予定だったんだ。 …………。 誰かの助言を受けている節があるな。(リリム)(なに?)(ルビレルはいるか?)(いないみたいね) それは朗報。 僕は前回同様の四人を櫓に登らせ、騎兵に狙いを定めるように指示を出して矢を射らせる。 まだ緒戦。 ここで消耗品を無駄撃ちさせるなんて愚の骨頂だ。 少数精鋭で撃たせて有効射程内で三騎を射落す。 優秀。 流れ矢に当たった剣兵が二人。 騎兵に気を取られている間に相手の弓兵が射程に入ったようで、矢が飛んできた。 四人は素早く標的を弓兵に変更して一人を射殺し、三人を負傷させて射程の外に追い出したようだ。「退け! 撤退だ!」「退くな! これ以上オレに恥をかかせる気か!!」 それはいくら何でも酷ってもんだよジュニアくん。 地の利はこちらに一方的だし、不用意に接近したせいで先制を許して早々に死傷者出しちゃってるじゃない。 勝ち目はないんだよ。 冷静に考えることだね。 あー……いや、ここで冷静になられても困るから、もうちょっと煽ってやろうか。「これ以上恥をと言われるが、これ以上恥のかきようがあるのか?」 さん、はいっ! 門の内側に集まっている男たちが笑い囃し立てる。「ぐぬっ……言わせておけば……」「若っ! これ以上は若のお命に関わります。ここは一旦退いてくださりませ!」 誰だろう? 冷静な判断ができてるやつがいる。 ルビレル以外にも人材がいるのか。 僕は櫓に繋がっている糸電話で声の主の生け捕りを指示する。「難しいと思いますけど、やってみよう」
完全に見えなくなるのを確認させてから、次の指示を出す。 畑に木の置き盾を設置するのだ。 障害物としてね。 戦闘になったらどうしても被害は覚悟しなきゃいけないんだけど、できればあんまり畑を荒らされたくない。 こうしておけばホルスで荒らされることはなくなるんじゃないかと思ってさ。 もちろん味方の盾としても使うんだけど。「ジョー」「何か?」「次に来るのは何日後になるかな?」「ホルスを飛ばして片道五日……そうさな、十四、五日ってところか」 また僕の誕生日くらいか……。 呪われてんのか? 誕生日。「じゃあ、明日から十日間はいつも通りに過ごしてもらおう。クレタとカルホに回覧板を作って回すように言ってくれ」「かしこまりました」 と、その場を後にしたのはザイーダ。 残りのメンバーはじっと僕を見ている。 ? なんか言わなきゃダメ?「念の為、今日は見張りを四人にして、明日以降通常の二人体制に戻す。解散」 さて、そのいつも通りの十日ってのもダラダラできるわけもなく、フレイラを脱穀したり粉に挽いたり(用水路の水車大活躍)、保存食の仕込みをしたり雑木林で木の実やキノコを採集したりと、まぁ主に食い物周りで大忙しなわけだ。 他には裏の畑の拡張もする。 今年の表の畑はフレイラを秋蒔きできないから、少しでも開墾しとかないとね。 あっという間に十日が過ぎて、十一日目は休息日にした。 肉体労働で疲れた体を休ませて、決戦に備えるためだ。 十二日目からは櫓の見張りを四人に増強しての戦時体制に突入。 十五日目、まだ来る気配がない。 そして、僕の誕生日である十六日目、ついにオルバック軍が姿を現した。 チッ、やっぱり僕の誕生日に事件は起きるのか。(呪われてる?)(どうかしらね?) リリムにははぐらかされたけど、どう考えても天の配剤ってやつじゃねーの?
「開けろ! ええい、門を開けんかっ!」 それでハイそうですかと門を開けるくらいなら、こんな態度に出ちゃいないよ。 僕が門の裏で指示を出し、左右の櫓に隠れていたサビーとイラード、シメイとアーシカが姿を現す。 もちろん弓を引き絞り使節団に狙いをつけさせる。 外の様子は上空にいるリリムによって逐一報告が入るから手に取るように判るんだから便利だよ、ホント。 警備の騎士がホルスをなだめ、人夫が逃げ出そうとするのをオルバックJr.が叱咤する。 まぁ、叱咤は門のこっち側にも聞こえてくるけどね。「貴様ら、こんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」「まさか、一戦交える覚悟でやってるさ」「なっ、なにっ!?」 こっちは覚悟が決まっている。 でも、あっちは覚悟がついてないようだ。 そりゃそうだ。 代々ずっと百姓は黙って税を納めるものと思っていたんだろうからね。 税を取り立てに来て拒否されるなんて青天の霹靂てなもんだろうよ。 さてさて、問答なんてまどろっこしいので本日は早々にお引き取り願おうか。 僕はシメイに指示を出して威嚇のために荷車に一矢射ってもらう。「こら! 逃げるな! 臆病者!!」 と、声が聞こえる。 リリムの報告を待つまでもなく、人夫が逃げ出したんだろう。 二、三言葉が交わされた後、ジュニアが忌々しそうに「覚えておれ!」 と捨て台詞を吐いで帰っていった。 さ、もう少し屈辱を与えておこう。 僕は念の為集めていた男たちに鬨の声を上げさせる。 勝ち誇って見せたのだ。 これできっと次に来るのもオルバック家になる。 それも大将にジュニアを立ててさ。 功立て名を挙げてこそ騎士ってもんだ。 辺境の集落から税を取り立てられずに逃げ帰ってきたなんて、こんな不名誉ないからね。 騎士の名誉ってのはこの世界でも重要だろ?
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し